造形史設計

造形史設計

中世ルネサンス技法を学ぶ 「本」をつくるとは?

担当教員

金沢百枝教授

金沢百枝教授

Overview

多様なかたちで「芸術」にアプローチする芸術学科のなかで、わたしの使命は、いわゆる「芸術/Fine Art」以外のものに学生たちが触れる機会をつくることだと思っています。西洋では長く芸術家の作品である〈芸術/Fine Art〉と職人のつくる〈装飾/工芸Decorative Art〉が分断されてきました。しかし、そういった芸術観とは無縁だった日本。それを現代でも引き継ぐ必然性はあるのでしょうか。
このゼミでは古今東西のさまざまな「モノ」に目を向けて、改めて「芸術」とはなにか、その境界線を探ります。具体的には、2021年度前期では西洋近代以前の絵画技法(モザイク、フレスコ、テンペラ画など)の実習と、後期には、中世に成立した「本」という形体と文字の歴史から、現代のブックデザイン、編集、工芸や民藝、消費社会と「雑貨」などについて、羊皮紙製作者、カリグラファー、ブックデザイナ―、編集者、骨董蒐集家などをお招きして、ともに考えてゆきます。

※本設計は、2023年度まで「装飾デザイン調査設計」として開講していました。

  • 授業風景(フレスコ実習)

    授業風景(フレスコ実習)

  • 授業風景(モザイク実習)

    授業風景(モザイク実習)

  • ゼミ誌『造形史設計ゼミ 活動報告』

    ゼミ誌『造形史設計ゼミ 活動報告』

Curriculum

中世・ルネサンス美術の技法・本と工芸

授業のねらい
わたしは、毎年、ゼミを3部構成にしています。
近代以前の美術、とくに中世・ルネサンス美術をみるために必要な技法を学ぶ第一部(前期)、芸術と工芸のあわいを探り、芸術とはなにか、そして「本」と「文字」「言葉」について考える第二部(後期)と、ゼミ生それぞれの研究を発表し議論する第三部(通年)です。
 ヨーロッパの絵画には、さまざまな技法が使われています。ポンペイの壁画を飾っていたフレスコ画、ローマの豪奢な館やキリスト教の教会を飾っていたモザイク画、フラ・アンジェリコが祭壇画に用いたテンペラ技法、中世に華やかに発展を遂げた写本装飾、羽ペンを用いて描くカリグラフィーなどです。しかし、そうした多様な技法は、近世以降、中世後期に北方で発展した油彩技法にとってかわられ、現在、西洋の名画と呼ばれるほとんどが「油彩画」でした。しかし、当然のことながら、ヨーロッパを訪ねると、さまざまな技法が存在します。水彩画や版画は、近代の美術教育でも学ぶ機会がありますが、それ以外については触れる機会も少ないことでしょう。そこで前期は西洋近代以前の絵画技法であるモザイク、フレスコ、テンペラを扱いました。古代から中世の絵画技法について学び、実習を行うことで、技法についてより深く理解し、実際観たときのものの見方が変わるに違いありません。
残念ながら、ここ数年の疫禍で自由に旅をすることもままならなかったため、ゼミ生たちも自分たちの「眼」の変化を意識することがむつかしかったかもしれませんが、いつか、役立つときが来るに違いありません。後期には、中世に成立した「本」という形体と文字の歴史やカリグラフィー、現代の雑誌や本のデザインやその作り、思想に触れました。「美」とはなにか、美術館や大学においてすでに認められた「美」ではない「最果て」へと思いを馳せられる瞬間があったのなら幸いです。
このゼミにはいろんな興味をもつ学生が集まっており、別のゼミに所属している場合も多いので、学生たちの研究発表は万華鏡のように色とりどり。ゼミはみなさんと一緒につくりあげていくものなので、年ごとに雰囲気は違います。
皆さん自身で、ゼミをつくりあげていってください。

Student Message

Student Message

「つくる×考える」が両方楽しめるゼミです。フレスコ画やモザイク画といった歴史的な技法を実際に体験することで、作品鑑賞の視点が確実に広がりました。たとえばシスティーナ礼拝堂の天井画は、緻密な遠近法の設計だけでなく、巨大な空間での作業の困難さや、乾く前に仕上げる技術の凄さにも目が向くようになりました。画家が「職人」としての側面を強く持っていたことにも気づかされ、美術館や教会を訪れるのがより楽しくなります。さらに、金沢先生の授業は、軽い読書や検索では決して得られない視点と情報に満ちており、授業後には必ず、新しい視点や問いを手にしていると感じます。

4年生 M・U